紙のブログ

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紙のコラム

紙のコラム:蒼いフォトグラフ

思い出の写真は、全部セピア色だ。生まれて数時間の出来立ての人間だった、もとい、母のお腹の中で十月十日熟成されて、下界に降り立ったばかりの私も、歴史上の人物写真くらいセピア色の赤ちゃん。

うちにカメラはあったのだろうか。両親の結婚写真のスナップを見ると、まだ若い青年だった本家のおんちゃんがカメラマンだったりする~なにげに鏡に自分を写して撮っている。商売をしていたから、私が生まれる前から、我が家にはテレビがあった…東京オリンピック前年生まれ。オリンピックだから買ったわけでもなかったから、きっと祖父がプロレスみたいと駄々をこねて息子たる父に買わせたのだろう。

だから、カメラがあながちなかったとも言い切れない。祖父母に抱かれた御幼少の私が縁側で、いろんな人に囲まれたスナップもあるし、「スターになったら絶対に廃棄してやる」と思った恥ずかしい、家族ならではのアングルの写真もある。誰かに頼んでいたら、こんな日常のスナップを撮ることはできない。

じゃあ、カメラマンは誰だったのだろうかというとこれも定かではないのだ。父かと思いきや、私が小学生の時、けっこういいお値段のカメラを購入したのだが、「使い方がわからん」とカメラは戸棚に大切に仕舞われていた。

では、祖父か。いやいや、だいたいの写真の被写体というか、私が写ってる&祖父もいる状態だから、今どきのスマホの自撮り棒じゃない限りそれは、昭和の時代には無理っていうもの。

5人いた叔母たちでも、母でも絶対ない。もちろん、祖母は最初から勘定にはいれていない。

WHO?。誰なの?。

アルバムに貼られた写真はその中でもベストショットだったはず。いや、母の好みか…万年筆で丁重にキャプション「お父様といっしょでご機嫌!」とか書き込んでいるし。お父様って、いったいどこのブルジョワのお嬢なのだ、私は。

一枚一枚の写真を焼くのは、写真屋さん。現像代が、フィルム代に匹敵するくらい高かった時代のお話だ。

アルバムの写真だけならば、大した額にはならない。

しかし、デジカメが出現する前の新聞社の新人カメラマンが、本当に微妙にアングルを変えて似たような写真をたくさん撮って、ポジという種類の高いフィルムを大量に使ってしまい、「これは経費で落とせない!」と言われるくらいの量のスナップが、古いお菓子の箱やら缶やらから「出土」しているのだ。

こんなに写真焼いたら、私に飲ませるミルクも満足に買わなかった我が家は、破産してしまうはずだ。

昔の印画紙は、必ず経年劣化と言うセピア色の白黒になる。今の時代はそれを修復して、TwitterやInstagramに載せているご苦労さんな人もいるけれど。

やっぱし、カラー写真でもセピア化したものを、現代の色に置き換えた写真には、抵抗がある。

今の時代は、スマホで撮って、自宅の複合型プリンターで、焼かないで、印刷する~私の場合は、それだけの技術がないので、街に1軒となってしまった写真屋さんに持って行って、パソコンでなんかサクサクしてもらっているけど。

うちのいとこは、写真専用のプリンターで手内職している。何気に、「インク代高いのよね」と請求してくる。印画紙も、専用サイズのを、大型家電量販店で、お安いのでなく純正を買っているらしく、コンビニプリントよりはるかに高い経費をかけて、ママ友の分も印刷している。料金はとらないらしい。

でも私は、知っている。印画紙は、もともとは文房具屋さんというか紙専門店でもっと写真がバエる専門品が売っていることを。家電量販店の特売のじゃなく、純正をも超えたきれいな写真になる印画紙が、リーズナブルなお値段で買えることを。しかも、サイズも指定できることを。印画紙だけでも節約できたら、経費はもっと安くなる。

でも、家内制手工業をしているいとこは同じ写真を何枚も印刷しては、きれいな形にカットして、息子ごとにコラージュして貼り付けている。

今はアルバムも作らない時代なのだね。

あ、昔住んでいたアパートで、一人暮らしが原則なのに同棲していたお嬢さんが追い出された。その時に、全部引っ越したのに、そのボードだけがポツンと部屋に残されていたのだよ。彼女の部屋に転がり込めなくなった彼氏とは、引っ越しを機会に別れたから、そんな写真いらなかったのかな。

うちのセピア色の一番大量にある、両親の結婚式の写真も、ボードにコラージュしてみようかしら。

どうせ箱に仕舞われているのだし、何年かに1回、大掃除の手を休めて私が見るだけで、その私もこの世から消えたら、誰にも不要の写真になってしまうのだし。

祖父母も、両親も、叔母たちも、仲人をつとめた母の師匠夫妻も、みんなみんな若い。大半がもう鬼籍に入ってしまったけれど。逆説的に言えば、今の私より全員若いのに、全員私より大人に見えるのは、やはり写真のセピア色という魔法なのかしら。

暗室に入って、一枚一枚印画紙に焼き付けられた時代は、そして、人々の生活は、令和にはない。

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コラムを読んでアルバム作りたくなった方はコチラの両面写真用紙を是非。。。
https://www.moriichi-net.co.jp/c/cat23