紙のブログ

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お客さまに聞きました: アマチュア写真家    荒井俊明さま

こんにちは、松本洋紙店スタッフです。
多業種にわたる松本洋紙店のお客さまから、今回は
アマチュア写真家 荒井俊明さまにご協力をいただきお話をお聞きしました。

「ニッコールクラブみやこ支部」支部長をお務めで、
2020年には土門拳文化賞奨励賞を受賞されました。

(ちなみに2023年10月19日~11月1日、ニコンプラザ大阪THE GALLERYにて
「ニッコールクラブみやこ支部展」が開催されます!)

今回は貴重なお写真をなんと8点、掲載させていただきました。ぜひご覧くださいませ。

Q:プロフィールをお教えください

1952年生まれ、京都府福知山市の山深い里で生まれ、常に自然と共に暮らしてきました。

高校時代に天体に興味を持って、アルバイトをしながら天体望遠鏡を買いました。
何せ、周りは山ばかりなので、空は澄んでいて星空を眺めるには持って来いの環境でした。当時カメラは高嶺の花で手に入る訳も無くただ眺めるだけの日々でしたが、ある時、誰かに見せて貰ったオリオン座の写真にくぎ付けに。思い返せば、映像関係の会社に就職して写真を友として今日まで続けて来られたのは、この1枚の写真との出会いがあったからなのかもしれません。

最初のカメラはニコマートFTN。安い給料を貯めて買いました。25歳の頃、ペンタックス6×7を担いで京都の四季折々の風景を撮り始めたのが写真人生の始まりです。

略歴
1980年 京都市内のギャラリーで写真展「京の四季」開催
1985年 ニッコールフォトコンテスト第1部ニッコール大賞
2014年 ニッコールフォトコンテスト第1部ニッコール大賞、長岡賞
2016年 ニコンサロンbis 大阪、新宿で写真展「里暦」開催
2017年 ニッコールクラブ「みやこ支部」発足
2019年 大阪ニコンプラザTHE GALLERYで写真展「はしうど」開催
2019年 ニッコールフォトコンテスト第1部ニッコール大賞
2020年 銀座、大阪ニコンサロンで写真展「カムナビ」開催
2020年 土門拳文化賞奨励賞

Q:コンテスト応募はもうされてないのですね

小さなクラブに入り、誘われて観に行ったニッコールフォトコンテスト受賞作品展。あの時の衝撃は今でも鮮明に残っています。そこから私もすっかりコンテスト志向に変わってしまいました。その当時は写真界も元気で、カメラメーカーもそれぞれにコンテストを開催していましたし、雑誌の月例も錚々たる顔ぶれで、そんなに簡単に入賞するわけもなく、ひたすら応募を続ける日々でした。長い間そんな時期が続いて、ある時ふっと今の自分に疑問が湧いてきました。それは「今のままでいいのか」なのです。そんな時に出会ったのが「御崎」という小さな集落でした。外の世界から隔離された様な断崖絶壁に暮らす人達は優しく大らか。この暮らしを撮ろう。一気に先が見えた気がしました。

それからは、ひたすらこの集落に通う日々が続きます。この暮らしの中から「里暦」という写真展に繋がり、コンテストと両立できる様になりました。
そして2年前からコンテストも卒業して、記録の意味も含めて小さな村に通っています。

Q:今回の作品についてお聞かせください

作品は8枚あります。
人には誰でも日向と陰があると思います。写真の表現でも同じです。私の中にも明白にあって、日向の部分が写真展「里暦」、陰の部分が「カムナビ」、その中間の辺りが「はしうど」という形になったかなと思っています。

今回、日向と陰で4枚ずつで構成しました。
日向の部分は、「はしうど」の撮影で出会った笑顔。(1~4)
陰は「カムナビ」の一連です。(5~8)

誰しも抱える日向と陰、それを感じていただけたら嬉しいです。

作品1

作品2

作品3

作品4

作品5

作品6

作品7

作品8

Q:目にしたことのないような山の表情です

確かに「カムナビ」では山の写真が30点ほど並び、怖いと言って帰ってしまった方がいらしたほどでした。正直、山に入るのは怖い。でも、山が呼ぶのです。入らずにはいられないのです。炭焼しか入らぬ太古の森には鳥肌が立つほどの霊気が漂います。本来であれば神が宿る森、静かに鎮座しているはずの神がドロドロと動き始めている、そんな気がするのです。

子供の頃は怖いと思ったことはありませんでした。祖母からは化け物がいる、と言われて育ちましたがそれは山を大切にし、無下に樹を切るな、という意味だったと思います。両親はとても苦労して低木の茂る山に杉や檜を植林したわけですが、その結果、葉が落ちずいつも暗い山になってしまった。災害やアレルギーも増えてしまった。人工林には神を感じることはありません。本来の姿を失ってしまった山が、怒っているように思うのです。危ない目に何度もあいながらも、どうしても行ってしまう。塩と数珠を必ず持ち、入らせていただきますと頭を下げ、目をつぶり気配を感じる方に向かい、たったひとりで撮ります。自分という存在を消し去って、ただ呼ばれるままに撮りたいと思っています。

Q:山と同様「里」にもずっと通われるんですね

「里暦」や「はしうど」の舞台になった里にも10年以上通いました。日常の何気ない暮らしを撮りたくて、そのためには人々との関係を築いた上で、やはり自分の存在を消し、空気のようになるしかないと思い通い詰めました。例えば「里暦」の作品にはカメラ目線のものは1枚もありません。

また、村の記録、村誌として写真が持つ意味も大切にしています。過疎化が進み、どんどん人が減っていく。人々の暮らしがどんなものだったのか、その歴史はどうだったのか、調べて伝えていく。それは1枚1枚に魂を込めないとできないと思っています。例えば人が住まなくなった村を廃村、と人は簡単に言いますが、必ず「無住化集落」と言い換えてもらいます。やむなく人が住まなくなるのであって、お墓も管理されており、電気も通っている。好きで捨てたわけではなく、まだそこをふるさととして大切に想う人がいるのです。

ずっと人々の話を聞き、向き合っていると苦しくなることも実際にはあります。大切な方が亡くなることもありますし、聞きたくないことを聞くときもあります。それでも逃げないで、淡々とした日常を撮りたい。何気ない暮らしを見てほしい、そう思っています。

Q:カメラや紙、プリンターへのこだわりはありますか

カメラはニコンD810を使っています。レンズは殆ど50mmf/1.4と35mmf/1.8、ごくたまに望遠を使うくらいです。レンズに甘えず、被写体にきちんと近づいて撮りたいですし、歪みが出るのも嫌なのです。

紙はコンテストに応募していた時期は松本洋紙店の写真用紙を使っていましたが、今はピクトリコのシルバーラベルプラスやソフトグロス等を使ったりしています。ほとんどモノクロの作品で、少し黄色みがかった紙のほうが合うのです。

プリンターはエプソンSC-PX3Vを使っています。これを買ってすぐに1Vが出てショックを受けました(笑)。5V2も持っているので大きなプリンターが2台もうちにあります。プリントは本当に大事です。もちろんしっかり撮るのが基本で、レタッチも最小限ですが、プリントにも時間をかけ隅々まできちんと見ます。そこをおろそかにすれば良い作品は生み出せないと思っています。

松本洋紙店スタッフより

今までお話を伺ってきた写真家の方々とはもちろん、お仲間でいらっしゃいました。長く写真に関わり、日本各地に写友がいらっしゃる。毎回思いますが本当に羨ましい、です。

はじめは最初の4枚、こんな笑顔を撮ってもらえたら素敵、と願うほどの自然な笑顔の印象が強かったです。日常の一コマを切り取っていて、こちらも笑顔になってしまう。後半の陰の4枚は、浅い呼吸が深まるような静かな作品だなと思っていました。何度か見るたびに今度は、陰の4枚のほうが迫って来ました。静かな作品ではないぞ、なにか大きな存在、畏怖すべき存在が宿っている、様々な言葉にならない蠢きのようなものを感じるようになりました。そして今、畏怖すべき存在を知ることで、逆に人の笑顔の尊さのようなものを強く感じます。

荒井さまの次なる展覧会や作品集を心待ちにしつつ、山での撮影のご無事をただただ願うことにいたします。